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毎朝通る道に、気になるパン屋さんがある。
ガラス張りの小さな店で、派手な看板があるわけでもない。意識して探したわけではなく、いつの間にか、そこにあるのが当たり前になっていた。
ただ、その店は、いつも開店時間前だ。私がその道を通る時間には、シャッターは半分閉まっていて、中に入ることはできない。
入れないけれど、通り過ぎられない
店に入ったことは一度もない。
どんなパンが並んでいるのかも、正確には知らない。値段も、人気商品も分からない。それでも、毎朝その前を通るたびに、少しだけ意識が向く。
立ち止まるほどではないけれど、何も感じずに通り過ぎることもできない。その距離感が、ちょうどいい。
パンの香りだけが、先に来る
近づくと、パンの香りがする。
焼きたてなのか、準備の途中なのかは分からない。ただ、甘さと温かさが混じったような香りが、店の外まで届いている。
その香りを感じると、朝の空気が少し変わる。まだ何も始まっていない時間に、「これから」という気配だけが、ふっと差し込む。
買わなくても、いい気分になる
パンを買っていないのに、なぜかいい気分になる。
何かを手に入れたわけでも、得をしたわけでもない。それでも、パンの香りを吸い込んだだけで、朝が少しだけやわらぐ。
店に入らなくても、その存在に触れた感じがする。そういう体験が、朝にはちょうどいい。
いつか入るかもしれないし、入らないかもしれない
開店時間を調べたことはある。
少し早く出れば、入れるかもしれない。でも、今のところ、そこまでしてはいない。無理に予定を変えてまで、入ろうとは思っていない。
いつか、ふとした日に入るかもしれないし、結局入らないままかもしれない。その曖昧さも含めて、この店との関係が続いている。
朝の店は、準備中がいちばん好き
営業中の店より、準備中の店に惹かれることがある。
まだ整いきっていない感じ。誰かのために動き始める前の、内向きな時間。朝のパン屋さんは、まさにその状態だ。
シャッターの向こうで、今日の準備が進んでいる。その気配だけで、十分な気がする。
毎朝、同じように素通りする
今日も、店の前を通り過ぎる。
香りを感じて、少しだけ気分が変わって、そのまま歩く。特別なことは起きないけれど、それでいい。
朝の店は、立ち寄る場所じゃなく、通り過ぎる場所であってほしい。そのほうが、この時間には合っている。

理由はないけど、気になっている
なぜ気になるのかは、うまく説明できない。
パンが好きだから、というだけでもないし、いつか行きたいから、というほど強い思いでもない。ただ、毎朝そこにあるのが、少し嬉しい。
開店前のパン屋さんと、パンの香りだけ。理由はないけれど、それだけで朝が少し好きになる。そんな場所が、毎日の道にあるのは、悪くないと思っている。

